恐ろしい東京
夢野久作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)這々《ほうほう》
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 久し振りに上京するとマゴツク事や、吃驚させられる事ばかりで、だんだん恐ろしくなって来る。田舎にいると、これでも相当の東京通であるが、本場に乗り出すと豈計らんやで、皆から笑い草にされる事が多い。
 横浜から出る電車は東京行ばかりと思って乗り込んで、澄まして新聞を読んでいるうちにフト気が付くと大森林の傍を通っているのでビックリした。モウ東京に着く頃だがハテ、何処の公園の中を通っているのか知らんと思って窓の外を覗いてみると単線になっているのでイヨイヨ狼狽した。車掌に聞いてみると八王子へ行くのだという。冗談じゃない。這々《ほうほう》の体で神奈川迄送り戻された。
 銀座尾張町から上野の展覧会へ行く積りで、生まれて初めての地下鉄へ降りてみる。見渡す限り百貨店みたいで、何処で切符を売っているのかわからないし、プラットフォームらしいものもないので、間違ったのかなと思って又石段を上って見ると、丸キリ知らない繁華な町である。そんなに遠くへ歩いたおぼえはないが……と不思議に思い思いモトの階段を
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