降りて、反対側の階段を昇ると、又も素晴らしく巨大な、知らない時計店の前に出た。上野の広小路じゃないか知らんと思い迷ってキョロキョロしていたが、そうでもないようである。……とにかく今一度モトの処へ帰らなければと思い思い、タッタ今見て来た店の順序をタヨリに最初に降りた階段を上ってみるとヤットわかった。三つの町は三つとも銀座尾張町なので、入口が四ツ在るのを知らずに、同じ四辻を別々の方向から眺めたから町の感じが違ったのだ。同時に、ホントの地下鉄はモウ一階下に在る事も、音響の工合でわかったので……ナアンダイ……と思ったが、しかし何となく心細くなったので、そのまま宿へ帰ってしまった。
山の手線電車が田町に停まったら、降りた人が入口を開け放しにして行って寒くてしようがないので、入口を閉めようとしたがナカナカ閉まらない。直ぐ傍に立っている喜多実君と坂元雪鳥君とであったかが腹を抱えて笑っている。理由がわからずマゴマゴしているうちに、自動開閉器で閉まって来た扉に突き飛ばされかけた。
この恨みは終生忘れまいと心に誓った。
銀座の夜店で机の上にボール箱を二つ並べて、一方から一方へ堅炭を鉄の鋏で移している
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