。一方が空になると又一パイになっているボール箱の方から一つ一つに炭を挾んで空のボール箱へ移し返し始める。それを何度も何度も繰り返しているから不思議に思って見ていたが、サッパリ理由がわからない。二つのボール箱の左から右へ、右から左へと一つ一つに炭の山を積み返し積み返して、夜通しでも繰り返しかねないくらい。やっている本人は落ち着き払っている。それを又、大勢の人が立って見ているからおかしい。今に理由がわかるだろうと思って一心に見ていたが、そのうちに欠伸が出て来たので諦めて帰った。
家に帰ってからこの事を皆に話したら、妹や従弟連中が引っくり返って笑った。その炭を挾む鉄の道具を売るのが目的だという事がヤットわかった。
こんな体験をくり返しているうちに、筆者はだんだんと東京が恐ろしくなって来た。すくなくとも東京が日本第一の生存競争場である位の事は万々心得て上京した積りであったが、このアンバイで見るとその生存競争があんまり高潮し過ぎて、人間離れ、神様離れした物凄いインチキ競争の世界にまで進化して来ているようである。アノ高々と聳立している無電塔や議事堂も、事によると本物ではないかも知れない。あの青
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