奇妙な遠眼鏡
夢野久作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)その中《うち》で

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一番|温柔《おとな》しい児
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 ある所にアア、サア、リイという三人の兄弟がありました。
 その中《うち》で三番目のリイは一番|温柔《おとな》しい児でしたが、ちいさい時に眼の病気をして、片っ方の眼がつぶっていましたので、二人の兄さんはメッカチメッカチとイジメてばかりおりました。
 リイは外へ遊びに行っても、ほかの子供にやっぱしメッカチメッカチと笑われますので、いつもひとりポッチであそんでいましたが、感心なことに、どんなに笑われてもちっとも憤《おこ》ったことがありませんでした。
 ある時、三人の兄弟はお父さんとお母さんに連れられて、山一つ向うの町のお祭りを見に行きましたが、その時お父さんが、
「今日は三人に一つずつオモチャを買ってやるから、何でもいいものを云ってみろ」
 と云われました。
 アアは、
「何でも狙えばきっとあたる鉄砲がいい」
 と云いました。サアは、
「何でも切れる刀が欲しい」
 と云いました。又リイは、
「どこでも見える遠眼鏡《とおめがね》が欲しい」
 と云いました。
 これを聞いたお父さんとお母さんはお笑いになって、
「お前達の云うものはみんな|六ヶ《むずか》しくてダメだ。それにアアのもサアのも、鉄砲だの刀だの、あぶないものばかりだ。そんなものを欲しがるものじゃない。リイを見ろ。一番ちいさいけれども温柔《おとな》しいから、欲しがるものでもちっともあぶなくない。みんなリイの真似をしろ」
 と、兄さん二人が叱られてしまいました。そうして何も買ってもらえずに、只お祭りを見たばかりでお家《うち》へ連れて帰られました。
 アアとサアと二人の兄さんは大層|口惜《くや》しがって、今夜リイをウンとイジめてやろうと相談をしましたが、リイはチャンときいて知っておりました。
 その晩、兄弟三人は揃って、
「お父さんお母さん、お先へ……」
 と云って離れた室《へや》に寝ますと、間もなくアアとサアは起き上って、リイをつかまえて窓から外へ引《ひき》ずり出して、そのまま窓をしめて寝てしまいましたが、リイは前から知っていましたから、声も出さずに兄さん達のする通りになっていました。
 リイはそのまま窓の外の草原《くさはら》に
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