それからアアとサアのお妃《きさき》の父親の王様も死んでしまって、アアもサアも立派な鬚を生《は》やした王様になっておりました。
一番兄さんのアア王は今一本の手紙を書いて、弟のサア王の国へお使いに持たせてやっております。
その手紙にはこんなことが書いてありました。
「おれとお前とはこの国を半分|宛《ずつ》持っている。しかしおれはお前の兄さんだから、お前はおれの家来になって、お前の国をおれによこしてもいいと思う。そうすればお前はおれの一番いい家来にしてやる。けれどももしお前がイヤだと云うのなら、おれは何にでもあたる鉄砲を持っているから、ここからお前を狙って打ち殺してしまうぞ」
この手紙を見た弟のサアは大層|怒《おこ》りました。
「いくら兄さんでも、半分|宛《ずつ》わけて貰ったこの国を取り上げるようなことを云うのは乱暴だ。そんな兄さんの云うことは聴かなくてもよい。鉄の鎧を着ていればいくら鉄砲だってこわいことはない。今から兄さんと戦争をしてやろう」
と、すぐに家来に戦《いくさ》の用意をさせました。
このことをきいた兄さんのアア王は大層|憤《おこ》りまして、
「おのれ、サア王の憎い奴め。兄貴の云うことをきかないで戦争の用意をするなんて憎い奴だ。それならこっちから戦争をしかけて滅茶滅茶負かしてやれ」
と云うので、すぐに兵隊を呼び集めました。
アア王とサア王の妃《きさき》はもともと姉さんと妹ですから、大変心配をしまして、いろいろに二人の王様の戦争の用意を止めようとしましたが、二人ともなかなか云うことをききません。
二人のお妃は只泣くよりほかはありませんでした。
この有様を月の世界から見たリイは、月姫にこう云いました。
「私はこの戦争を止めに行かなければなりません。そうして二人の兄さんが一生涯戦争をしないようにしなければなりません」
月姫はこれをきいて、
「ほんとに早く止めて上げて下さいまし。二人のお姉様がお可哀想です。けれども、どうしてこんな大戦争をお止めになるのですか」
と眼をまん丸にして尋ねました。
リイはニッコリ笑いながら、
「まあ見ていて御覧なさい」
と云ううちに又も遠眼鏡を眼に当てました。
リイは遠眼鏡を眼に当てながら、一番兄さんの宝物《ほうもつ》の鉄砲はどこにあるかと思いながら、
「アム」
と云いますと、すぐに兄さんのアア王のお城の宝庫《た
前へ
次へ
全8ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング