ました。そのあとからサアが刀を抜いて、攻めて来る敵を片っぱしから刀も鎧《よろい》も一打《ひとうち》に切って切って切りまくりましたので、敵は大|敗《ま》けに敗《ま》けて逃げてしまいました。
その御褒美で、アアは王様の国を半分と一番目のお姫様を、サアはまた残りの半分と二番目のお姫様を貰って、二人共王様になり、お父様とお母様を半月|宛《ずつ》両方へ呼んで、大威張りをしているところまで見えました。
リイはあんまり早くいろんなことがはじまって行くので眼がまわるように思いましたが、それでもこの様子を見て安心をしまして遠眼鏡を眼から離しますと、最前から傍《かたわら》で見ていた月姫はニッコリしながら、
「人間の世界を御覧になりましたか」
と尋ねました。リイはだまってうなずきますと、月姫様はやはり笑いながら、
「あんまりいろんな事が早くかわって行くのでビックリなさったでしょう」
「ハイ。夜が明けたかと思うともう日が暮れます。そうして暗くなったと思うともう夜が明けています。あれはどうしたわけでしょう」
とリイは眼をまん丸にして尋ねました。
「それはこういうわけで御座います」
と月姫様は云いました。
「月の世界の一日は人間の世界の五万日になるのです。ですから、人間の世界の出来事を月の世界から見ると大変に早く見えるのです。もうあなたがその眼鏡を眼にお当てになってから、今までに三年ばかり経《た》っているのですよ」
「エッ、三年にも……」
とリイはビックリしました。しかしもうお父様やお母様も自分のことを忘れておいでになるだろう。そうして二人の兄さんたちに孝行をされて喜んでおいでになるだろうと思いましたから、いよいよ本当に安心をしました。
そうして月の御殿に這入って、月姫と並んで腰をかけて、並んだ御馳走を食べましたが、そのおいしかったこと。それから鳥の歌、虫の音楽、獣《けもの》の踊りなぞを見ましたが、そのおもしろかったこと……ほんとに月の世界はいいところだとリイは思いました。
そのうちにリイは又|家《うち》のことを思い出しました。
自分はこんなに面白く遊んでいるが、うちの人はどうしているだろうと思いながら、眼鏡を眼に当ててみますと……大変なことが見えました。
リイが人間の世界を遠眼鏡でのぞいた時は、もうこの前見た時から三十年も経っておりましたので、リイのお父さんやお母さんも、
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