呼び起すものがあった。私がビックリして飛び起きながら窓を開くと、ドッと吹込む吹雪と共に、松明《たいまつ》の光りが二つ三つチラチラと渦巻いて見えた。その松明の持主の顔はわからないが、皆|藁帽子《わらぼうし》を冠り、モンペと藁靴を穿いて、ちょうど昔の源平時代の落人狩りを忍ばせる身ごしらえであった。
「先生。先生。吉で御座います」
「おお。吉兵衛どんか。何しに来なすったか。この真夜中に……」
「ほかでも御座いませぬ。昨日か一昨日、ここへ郵便屋の忠平が来はしませんでしたろうか」
「……忠平……ああ、あの郵便屋さんは忠平というのか」
「さようで御座います先生様。参りませんでしたろうか」
「いいや。この二三日来なかったようだがね」
 松明連中が吹雪の中で顔を見合わせた。
「ヘエ。やっぱり……それじゃ……」
「……かも知れんのう……」
 私たちの話声は山々を轟《とどろ》き渡る吹雪の風に吹き散らされて、ともすれば松明の光りと共に消え消えになって行くのであった。
「まあこちらへ這入って来なさい。そこの戸は押せば開くから……」
 皆ドカドカと土間へ這入って来た。
「おお。暖《ぬく》い暖い」
「成る程なあ。
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