非常にペコペコして三拝九拝しながら私が持って行った手土産の菓子箱を受取ったものであった。
そうした若い局長さんの命令を一人の中年の郵便配達手がイトモ忠実に実行してくれた。
その郵便配達手君は青島《チンタオ》戦争の生残りという歩兵軍曹であった。機関銃にひっかけられたとかで、右の腕が附根の処から無くなり、左手の食指と、中指と、薬指の三本も亦《また》、砲弾の破片に千切られて、今は金鵄《きんし》勲章の年金を貰いながら郵便配達をやっているという話で、見るからに骨格の逞ましい、利かん気らしい、人相の悪いオジサンであった。身長もなかなか大きく五尺七八寸もあったろうか。それが巻ゲートルに地下足袋を穿《は》いて、毎朝十一時前後にやって来る。そうして私の寝室の入口を押開けて、上り口に突立つと、不動の姿勢を執りながらギックリと上体を屈めて敬礼し、前にまわした鞄《かばん》の中から郵便や、新聞や、雑誌の束を取出して恭《うやうや》しく私の手の届く処に差し置き、今一度謹しんで不動の姿勢を執って敬礼し、汚ない日本手拭で汗を拭き拭き立去るのであった。
しかも、そうした配達手君の敬礼は多分、あの文学青年の局長さんの
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