《あとしざ》りした。しかし、それとても別段に藤六の死因とは関係がありそうに思えなかった。つまるところ、藤六の風変りな信仰であったろう。それとも藤六がどこかで発見した無縁仏の骸骨を例の仏性《ほとけしょう》で祭ってやっていたものかも知れない。黒穂《くろんぼ》の束も、何の意味もなしに、持って来ただけ始末して仏様に供養していたのかも知れない……といったような話のほかに説明の付けようがなかったので、結局、藤六の死因は何かの中毒だろうという事になって片付いた。
なおその騒ぎの最中に、帳場の掛硯《かけすずり》の曳出《ひきだ》しからボロボロになって出て来た藤六の戸籍謄本によって、藤六が元来四国の生れという事……それにつれて、藤六は、その近まわりに一人も身よりタヨリの無い男という事がわかったので、葬式は自然近所|葬《ともらい》といった形になった。すると又それを聞いた直方《のうがた》の顔役が十円札を一枚投出してくれたので、それを便りに赤の他人が十人ばかり寄合って、今夜は通夜をしようという事になったが、もちろん念仏なんかはホンの型ばかり。仏が売り残した煮物類と酒樽の酒を相手に、いい加減酒の座が騒がしくなっ
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