種の邪宗門で、切支丹《きりしたん》が日本に這入って来るのと同じ頃に伝わって来て、九州地方の山窩《さんか》とか、××とか、いうものの中に行われておったという話じゃ」
「ヘエッ。それは初耳で……私が調べて参りました話と符合するところがありますようで……」
「フウム。それは面白いのう。あの藤六が死んで、舎利甲兵衛と黒穂《くろんぼ》の話が評判になりよった時分に、ちょうど避病院の落成式があったでのう。校長の奴、大得意で話しよったものじゃが、何でもこの直方《のうがた》地方は昔からの山窩の巣窟じゃったそうでのう。東の方は小倉の小笠原、西は筑前の黒田から逐《お》われた山窩どもが皆、この荒涼たる遠賀川の流域を眼ざして集まって来て、そこここに部落を作っておったものじゃそうな。藤六はやっぱりその山窩の流れを酌《く》む者じゃったに違わんと校長は云いおったがのう。吾輩は元来、山窩という奴を虫が好かんで……悪魔を拝むだけに犬畜生とも人間ともわからぬ事をしおるでのう。ことに藤六は、あの通りの人物じゃったけに真逆《まさか》に山窩とは思われぬと思うて、格別気にも止めずにおったのじゃがのう」
「ヘエ。そのお話を今少《まち
前へ 次へ
全33ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング