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直方署の巡査部長室の床の上に、猿轡を外された小女が、グルグル巻のまま寝かされていた。銀杏髷《いちょうまげ》がグシャグシャになって、横頬を無残に擦剥《すりむ》いていたが、ジッと唇を噛んで、眼を閉じて、横を向いていた。
その周囲を五六人の警官が物々しく取巻いて、銀次の陳述に耳を傾けていた。
中央に立った銀次は、すこし得意そうに汗を拭き拭きお辞儀をしては、横の火鉢に掛かっている薬鑵《やかん》の白湯《さゆ》を飲んだ。
「……ヘエ……お褒《ほ》めに預るほどの手柄でも御座んせんで……ヘヘ。あんな離れた一軒家で、前の藤六から以来《このかた》、小金《こがね》の溜まっているような噂が立っているそうで御座いますから、いつも油断しませずに、出入りのお客の態度《ようす》に眼を付けておりましたお蔭で御座いましょう。ヘエ。……この小女《あま》っちょが這入って来た時に、この界隈の者でない事は一眼でわかります。第一これ位の縹緻《きりょう》の娘は直方には居りませんようで……ヘヘ。それから一升買いに十円札を突《つ》ん出す柄じゃ御座んせんで……どう考えましても……ヘエ。それで一層気を付けておりますとこの小女
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