手で潜戸を締めて掛金をガッキリと掛けた。落ちていた四角い木片《きぎれ》で潜戸の穴を塞《ふさ》いだ。
 それから一時間ばかりの間、家の中には何の物音もしなかった。そのうちに二十分間ばかりラムプがアカアカと灯《つ》いていたようであったが、それもやがて消えてシインとしてしまった。
 月がグングンと西へ傾いた。
 方々で鶏《にわとり》が啼いて夜が明けて来た。

 突然、家の中からケタタマシイ叫び声が起った。魂消《たまげ》るような女の声で、
「……何すんのかア――イ……」
「………」
「アレッ……堪忍してエ――ッ」
「……………」
「……嘘|吐《つ》き嘘吐き。ええこの嘘吐き……エエッ。口惜しい口惜しい口惜しい口惜しい……」
 という叫び声と一所にドタンバタンという組打ちの音が高まったが、それがピッタリと静まると、やがて表の板戸が一枚ガタガタと開いて、頬冠りをした銀次の姿が出て来た。銀次の背中には、細引でグルグル巻にして、黒い覆面で猿轡《さるぐつわ》をはめた小女を担《かつ》いでいたが、そのまま月の沈んだ薄あかりの道をスタスタと町の方へ急いだ。
 女は銀次の背中でグッタリとなっていた。

     
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