開かれた。そこから西に傾いた月の光りが白々とさし込んだ。
 銀次は潜り戸からすこし離れて坐ったまま一心にその様子を見ていた。
 やがてその穴から白い小さい手が横になってスウッと這入って来た……と思うと何かに驚いたようにツルリと引込んだ。
 銀次は動かなかった。なおも息を殺して四角い月の光りを凝視していた。
 今一度小さな手がスウッと這入って来て、掛金《かけがね》の位置を軽く撫でたと思うと又、スルリと引込んだ。
 銀次は依然として動かなかった。
 三度目に白い小さい手がユックリと這入って来て、掛金にシッカリと指をかけた時、銀次は坐ったまま両手を近づけてその手をガッシリと掴んだ。掴んだままソロソロと立上って手の這入って来た穴に口を寄せた。低い力の籠《こ》もった声でユックリと囁《ささや》いた。
「……オイ……貴様は巡礼のお花じゃろ。……もうこうなったら諦らめろよ」
「……………」
「俺の顔を見知って来たか……」
「……………」
「俺がドレ位の恐ろしい人間かわかったか」
「……………」
「わかったか……阿魔《あま》……」
「……………」
「……俺の云う事を聞くか……」
「……………」
「聞かね
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