雨ふり坊主
夢野久作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)田圃《たんぼ》
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 お天気が続いて、どこの田圃《たんぼ》も水が乾上《ひあ》がりました。
 太郎のお父さんも百姓でしたが、自分の田の稲が枯れそうになりましたので、毎日毎日外に出て、空ばかり見て心配をしておりました。
 太郎は学校から帰って来まして鞄をかたづけるとすぐに、
「お父さんは」
 と尋ねました。
 お母さんは洗濯をしながら、
「稲が枯れそうだから田を見に行っていらっしゃるのだよ」
 と悲しそうに云われました。
 太郎はすぐに表に飛び出して田の処に行って見ると、お父さんが心配そうに空を見て立っておいでになりました。
「お父さん、お父さん。雨が降らないから心配してらっしゃるの」
 と太郎はうしろから走り寄って行きました。
「ウン。どっちの空を見ても雲は一つも無い。困ったことだ」
 とお父さんはふりかえりながら言って、口に啣《くわ》えたきせるから煙をプカプカ吹かされました。
「僕が雨をふらして上げましょうか」
 と太郎はお父さんの顔を見上げながら、まじめくさってこう云いました。
「アハハハ。馬鹿
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