な事を云うな。お前の力で雨がふるものか」
 とお父さんは腹を抱えて笑われました。
「でもお父さん」
 と太郎は一生懸命になって云いました。
「この間、運動会の前の日まで雨が降っていたでしょう。それに僕がテルテル坊主を作ったら、いいお天気になったでしょう」
「ウン」
「あの時みんなが大変喜びましたから、僕のテルテル坊主がお天気にしたんだって云ったら、皆えらいなあって云いましたよ」
「アハハハハ。そうか。テルテル坊主はお前の云うことをそんなによくきくのか」
「ききますとも。ですから今度は雨ふり坊主を作って、僕が雨を降らせるように頼もうと思うんです」
「アハハハハ。そりゃあみんなよろこぶだろう。やってみろ。雨がふったら御褒美《ごほうび》をやるぞ」
「僕はいりませんから、雨降り坊主にやって下さい」
 太郎はすぐに半紙を一枚持って来て、平仮名でこんなことを書きました。
「テルテル坊主テル坊主
 天気にするのが上手なら
 雨ふらすのも上手だろ

 田圃がみんな乾上《ひあが》って
 稲がすっかり枯れてゆく
 雨をふらしてくれないか

 僕の父さん母さんも
 ほかの百姓さんたちも
 どんなに喜ぶことだ
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