てこられました。そうして太郎さんの頭を撫でて、
「えらいえらい、御褒美をやるぞ」
 とお賞めになりました。
「僕はいりません。雨ふり坊主にお酒をかけてやって下さい」
 と云いました。
「よしよし、雨ふり坊主はどこにいるのだ」
 とお父さんが云われましたから、太郎は喜んで裏木戸へお父さんをつれて行ってみると、萩の花が雨に濡れて一パイに咲いているばかりで、雨ふり坊主はどこかへ流れて行って見えなくなっていました。
「お酒をかけてやると約束していたのに」
 と太郎さんはシクシク泣き出しました。
 お父さんは慰めながら云われました。
「おおかた恋の川へ流れて行ったのだろう。雨ふり坊主は自分で雨をふらして、自分で流れて行ったのだから、お前が嘘をついたと思いはしない。お父さんが川へお酒を流してやるから、そうしたらどこかで喜んで飲むだろう。泣くな泣くな。お前には別にごほうびを買ってやる……」



底本:「夢野久作全集1」ちくま文庫、筑摩書房
   1992(平成4)年5月22日第1刷発行
※この作品は初出時に署名「香倶土三鳥《かぐつちみどり》」で発表されたことが解題に記載されています。
入力:柴田卓
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