間に神経を冴《さ》えかえらせた。そうしておもむろに振り返った私の鼻の先へ、クレエンに釣られた太陽色の大坩堝が、白い火花を一面に鏤《ちりば》めながらキラキラとゆらめき迫っていた。触れるもののすべてを燃やすべく……。
 私は眼が眩《くら》んだ。ポムプの鋳型を踏み砕いて飛び退《の》いた。全身の血を心臓に集中さしたまま木工場の扉《ドア》に衝突して立ち止まった。
 私の前に五六人の鋳物工が駆け寄って来た。ピョコピョコと頭を下げつつ不注意を詫びた。
 その顔を見まわしながら私はポカンと口を開《あ》いていた。……額と、頬と、鼻の頭に受けた軽い火傷《やけど》に、冷たい空気がヒリヒリと沁みるのを感じていた……そうして工場全体の物音が一つ一つに嘲笑しているのを聴いていた……。
「エヘヘヘヘヘヘヘヘ」
「オホホホホホホホホ」
「イヒヒヒヒヒヒヒヒ」
「ハハハハハハハハハ」
「フフフフフフフフフ」
「ゲラゲラゲラゲラゲラ」
「ガラガラガラガラガラ」
「ゴロゴロゴロゴロゴロ」
「……ザマア見やがれ……」

       空中

 T11と番号を打った単葉の偵察機が、緑の野山を蹴落しつつスバラシイ急角度で上昇し始
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