怪青年モセイ
夢野久作
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)暗《やみ》に
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夏冬繁緒、河東茂生、滋岡透、そのほかいろいろ……田舎者の私は、みんな別々の人間のペンネームかと思っていた。それぞれ文壇の大家としての敬意を心の中で払っていたら、それがタッタ一人の姿になって、香椎山中の私をヒョッコリ訪問してくれた。
せいぜい十八、九ぐらいに見える、スラリとした、鼻の左右にニキビのパラパラと出来た青年であった。極めて粗末な大学生の服を着ていた。霜降りと黒ズボンの……帽子と持ち物は記憶しない。持っていなかったのかも知れぬ。
私は眉に唾をつけたくなった。けれども取りあえず縁側に頭をスリ付けた。油断がならない……と思いながら……。
青年はノコノコ上って来た。
「来よう来ようと思いながらツイ失敬しました」
と極まりわるげに笑いながら、書生ッポらしいお辞儀をヒョイとした。
私は幻滅の悲哀を感じた。生まれて初めて会う文壇人に対する期待が皆外れてしまったので……けれども、それと同時にこの青年がタマラなくなつかしい人物に見えて来たのは不思議であった。十分間ばかり話して
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