いるうちに、お互いの年を聞き合って大笑いをする位に親しくなった。「二十三と四十……チョット倍ですね」……なぞと……。
 文壇の知識に飢え渇いていた私は、あばら屋の中で黴臭い紅茶をすすめながら、次から次へと愚問を連発した。青年はどこまでも親切に、まじめに答えてくれた。「猟奇」誌上で私をコキ下したり、コキ上げたりしてヒヤヒヤさせた辣文家とは夢にも思えない。私はいよいよ面喰らいながら、貝殻のように聞き惚れた。
「本名の河東茂生を本当に読んでくれる人は殆どないのです。手紙でも河東茂とか河東茂夫とか書いて来るのが大部分です。そうかと思うとカトウモセイとかカワヒガシシゲルなんて御丁寧な電報をよこす奴があったりしてね……」
 とだんだん言葉つきが書生丸出しになる。こっちも山男の正体を現わしてゴロリと横になってしまう。
「チョット失敬して原稿を書きます」
 と言ってモセイ君は「猟奇」の黄色い原稿紙を取り出した。書いては破り、書いては破りし始めた。十年も前から一緒の下宿にいる気持になりながら、私はウトウ卜する。
 私はウトウトする片手間に、モセイ君のホッソリした身体を黒ビロードずくめの服で包んでみた。エ
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