お話につきましては作者の曲亭馬琴という方が昔からのいろいろな例を引いて、さもさも本当らしく書いておられるのでしたが、それを読みました時の私の驚きは、まあどんなで御座いましたでしょう。申すまでもなくその時まで私自身には、そのような事について何の知識も持たなかったので御座いましたが、それでもこの世にはキットそんな事があり得るに違いないという事をその時にどんなにか固く信じましたことでしょう。お母様のお言葉の秘密を解く鍵は、このお話のほかにないと思いまして、どんなにか夢中になって喜びました事でしょう。そうして、なおも先の方を読んで参りますと、その八つ房という犬の思い子となって生れた八犬士の身体《からだ》には、その父の犬の身体についていた八ツの斑紋が一ツずつ大きなほくろ[#「ほくろ」に傍点]となってあらわれて、親子のしるしとなっていたという事まで詳しく書いてあるでは御座いませんか。
 それは私にとりまして、それこそ眼も眩《くら》むほどの奇蹟的な喜びで御座いました。われと胸をシッカリと抱きしめて、時々は涙を流してまで溜め息をしいしい読み続けたことでした。
 ――男と女とが、お互いに思い合っただけで
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