から信じているので御座います。
 前にも申上げました通り、私は一生のうちに一度はキット、あなた様からの結婚のお申込みを受けますことを、ずっと前から覚悟致しておりましたので御座います。そうして、それと一緒に、その貴方様からのお申込みばかりは、たとい自分の心がどんなで御座いましょうともお受けしてはならぬ……と申しますような世にも悲しい、恐ろしい運命を持っておりますことをも、身に泌みてよく存じておりましたので御座います。

 そのわけを、只今からあなた様に、スッカリお打ち明けせねばなりませぬ私のせつなさ、情なさ、もう身を切られるようで御座います。とは申せ、世界中で唯お一人、そのわけを御理解下さる貴方様に、只|一眼《ひとめ》なりともお目もじが叶《かな》いまして、このようなお手紙を差し上げられるような身の上になりました事を思いますと、このままにこの秘密を胸に秘めてあの世に旅出ちますよりも、私はどんなにか幸福で御座いましょう。
 そのわけの第一と申しますのは、現在あなた様と私とを、同じように苦しめております、この病気で御座います。わけても私の方のは私の家《うち》の代々からお母様に伝わりましたものな
前へ 次へ
全127ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング