しい、清らかなお姿に見えて来てしようがないので御座いました。そうして、そのお姿を一心に見つめておりますと、そのうちに、その鏡の中のお母様の唇が、おのずと動き出しまして、その間際に仰有ったお言葉が凜々《りんりん》とすき透って、私の耳に響いて来るのでした。
「私は、不義を致しましたおぼえは毛頭御座いませぬ……けれども、この上のお宮仕えはいたしかねます」
というように……。
そのお声をきくたびに、私はいつもハッとして、うしろを振り返らずにはおられませんでした。そうして、そこいらに誰も居ないことをたしかめますと、今一度自分の口の中で、こうしたお母様の謎のようなお言葉をくり返しながら、あの時にお母様がお流しになった通りの涙を、ホロホロと流さずにはおられないのでございました。
私はそれから、だんだんと鏡を見るのが怖くなって来ました。鏡の中に映っております私の顔が、世にも不思議な気味のわるいものに思えたり、そうかと思いますとこの上もなくなつかしいものに見えたりしますので、その都度《つど》に鏡というものが、世にも取り止めのない、馬鹿らしいような、恐ろしいような、又はたまらなく苛立たしい品物のよう
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