ただくのを忘れてしまった位でした。
その中には関羽、張飛、玄徳の三枚続きの絵が二三通りありましたが、みんなお母様のお持ちのと違って絵の具が眼の醒《さ》めるように美しくて、金や銀の色がピカピカ光っておりました。これをお母様がお作りになったらどんなにか綺麗だろうと思っておりましたが、お母様は案外にも、そんな絵の中から八犬伝の中で犬塚信乃と犬飼現八と捕方三人を描いた五枚続きのをお選《え》り出しになりました。
「私はこれを作って見とう御座います。そうしてこの屋根の瓦と、現八の前垂れを本物のようにして見とう御座います」
とお父様に御相談をなさいました。
お父様もその時に一寸《ちょっと》案外という顔をなすったようですが、
「ウン。それもよかろう。どれ見せろ」
と仰有って信乃と現八の顔をウットリと見ておいでになりました。
けれどもその信乃の顔を横からのぞき込みました時の私の驚きはどんなで御座いましたろう。
その顔のすぐ横にある赤い小さな短冊の中には中村|珊玉《さんぎょく》という四文字が書いてありましたので、あなたのお父様が御改名をなすったことを存じませぬ私は、別の人かしらんとチョット思っ
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