、はたから見ていると、とても可笑《おか》しくてたまらぬ位だったそうで御座います。
「美人は子を生まず」とか「気嵩《きかさ》の女には子種がすくない」とかよく云うようで御座いますが、私のお母様は両方を兼ねておいでになりましたので、お祖母様もこの事ばかりを御心配なすってよくそんな愚痴を仰言ったそうです。もっともお父様はそんな事に就いては黙っておいでになりましたそうですが「三年子なければ去る」という慣《なら》わしが福岡にもありましたのに、かんじんのお母様がお家付きで、お父様の方が御養子でおいでになるので、お祖母様は、どうなさる事も出来なかったのでしょう。
 それでもお祖母様は、どんなにか初孫《ういまご》の顔を御覧になりたくておいでになったでしょう。
 お祖母様は、ですから時々御自分から進んでお母様をお連れになっては、お地蔵様だの、観音様だの、御神木なぞを拝みにお出でになったり、御符《ごふ》や御神水《ごしんすい》なぞを取り寄せて、お母様にお戴かせになったり、色々とお苦心をなすったそうです。「お前、きょうは観音様の日だよ」とか「明日《あした》はお地蔵様の何々だよ」とか仰言っては、月に二三度ずつお母
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