父様が何でも負ける事がお嫌いなのを、よく御存じでしたので、もし、お断りしてお雑煮も頂かずに逃げて帰ったことが、あとでわかっては大変とお思いになりまして、泣く泣くお引き受けになりましたが、何度も仕立て直したものなので、その縫いにくい苦しさと切なさ。涙が出たとのお話で御座いました。けれども、ともかくも、お雑煮が出来るまでに仕上げて、早速持たせてお遣りになりましたところが、大変にそれが気に入りましたらしく、すぐに沢山の仕立て代を持たせてよこしたのをお母様はキッパリとお断りになりましたそうです。そうしたらその角力《すもう》取りは、そのあくる日に沢山の縮緬《ちりめん》とか緞子《どんす》とかを台に載せて、自分で抱えて人力車に乗ってお母様の処へお礼に来ましたので、そんな訳を御存じないお父様は大層お驚きになりました。そうして御自分で玄関へ出て来て、
「うちの家内はお前達のような者に近づきは持たぬ」
と仰言ったのを、あとから出てお出でになったお母様がお引き止めになったので、やっと品物をお受け取りになりましたが、角力取りはお玄関で追い返されてしまいました。
「あれはお前を見に来たのに違いない。これから角
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