になっております博多の櫛田神社へ参詣致しまして、そこの絵馬堂《えまどう》に掲げてあります二枚の押絵《おしえ》の額ぶちに「お別れ」を致しました。
あなた様と私の運命にまつわっております不思議な秘密と申しますのは、その二枚の押絵の中に隠れているので御座います。私の背中と胸にあります突き疵《きず》と申しますのも、あなた様のお唇を安心してお受け出来ないようになりました原因と申しますのも、みんな、もとを申しますと、その二枚の押絵がした事なのでした。ですから私はその運命とお別れを致したいためにわざわざ九州まで参りましたので御座います。早かれ遅かれ助からぬ生命《いのち》と存じまして……。
けれど、その二枚の押絵をあおのいて見ておりますうちに私は何かしら、或る気高《けだか》い力に引き立てられて行くような気持ちになりました。
その中《うち》の一枚は八犬伝の一節で、犬塚信乃《いぬづかしの》と犬飼現八《いぬかいげんぱち》が芳流閣《ほうりゅうかく》の上で闘っておりますところで、今一つは阿古屋《あこや》の琴責《ことぜ》めの舞台面になっております。どちらも大きな硝子張りの額ぶちに入れてあります上から今|一
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