が、姦通の事実なくして生るる事あるはこの道理に依るもの也――
というに在り。故に、吾国の過去に於ける幾多の裁判が、その当時の最も有力なる学理学説によりて決定せられし先例に依る時は、この訴訟も亦《また》、この説を真理と認めて断定せらるべきものなる事を、余は断乎として主張し得るもの也。すなわちこの事件は、前述の如き心理状態に在りて、結婚を忌避しつつありしアリナ嬢を、従男爵が追求して謝絶の辞に窮せしめ、強いて同棲を承諾せしめしより起りしものにして、この婦人のこの画像に対する精神的の貞操を破らしめし罪は寧《むし》ろ従男爵側に在りと云うべし。アリナ嬢は、何事も云う能《あた》わずして嫁《か》し、何事も云う能わずして死せり。その貞操の高潔なる、その性情の純美なる、これをして疑うべくんば、天下いずれのところにか正義を求めん。これをしも同情せずんば、地上いずれのところにか人道を認めん」
と涙を揮《ふる》って痛論せしかば、満場|寂《せき》として云うところを知らず。唯、証人席に在りしアリナの実父母が歔欷《きょき》するあるのみ。遂にこの訴訟は従男爵コンラド氏の敗訴となり、アリナの霊と、従男爵の血によりて生
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