まに女になりました姿でおりますことを、まだ小さいうちからよく存じておりましたので御座います。
こう申し上げましただけでも、あなた様には私の申しますことが偽《いつわ》りで御座いませぬ証拠を、たやすくお気づき遊ばすで御座いましょう。そうして、すぐにも私を、血をわけた妹かと思し召して、どんなにか苦しみ遊ばすことで御座いましょう。
けれども、どうぞ御願いで御座いますから、お心をお鎮めになって、これから私が認《したた》めますことを、おしまいまで御覧下さいませ。
そう遊ばしたならば、あなた様と私とは、かように両親のみめ[#「みめ」に傍点]形《かたち》を取りかえた姿になっておりますままに、もしか致しますとその間には、何の血すじのつながりもあり得ませぬことをハッキリと証拠立てられるようにもなっております事が、追々《おいおい》とおわかりになるで御座いましょう。そうしてこのような不思議な御縁で、あなた様と結びつけられようと致しておりますことは、世にも忌《いま》わしい悪魔の所業なのか、それとも神様の尊い思し召しなのか、よくわかりませぬままに悩み悶えております私の心持ちも、一緒におわかりになるで御座いましょう。
私はあの演奏場で、あなた様のお顔をお見上げしますと同時に、兼《か》ねてから想像致しておりました、あなた様と私との運命にまつわる、かような不思議な悩ましさが、もう眼の前に押し迫っておりますことを、マザマザと思い知りましたので御座います。
御免遊ばせ。私はもう思いが乱れますばかりで、ただ取り止めもない事ばかり認めているようで御座います。
とは申せ、いずれに致しましてもこのような貴方様と私とにまつわる不思議な因縁がハッキリとわかりませぬうちは、たとい貴方様と私との思いが、どのようになりましょうとも、あなた様のお手にこの身をお委せすることは出来ませぬ。それよりも私の姿が貴方様方のお眼に止まりませぬうちに、この病気で亡くなりました方が、かえって貴方様のおためと存じまして、そればかりを祈っておりましたのに、あのようなことになりまして、私は演奏場からすぐに程近い綜合病院へ運ばれましたので御座いますが、その夜《よ》遅くに看護婦の隙《すき》を見て貴方様が、私の病室へお忍び下さいまして、あのようなお言葉をお洩らしになりました時の私の嬉しさと悲しさ……。
「その病気はキット僕がなおして上げ
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