のち》を助かって
都へ帰る十三人
生命《いのち》の代りに首からかけた
壺は青壺瀬戸物壺よ
中に溜るは助かる生命《いのち》
うれしうれしの喜び涙
又は父《とと》様|母《はは》様恋し
兄《あに》様姉様|妹《いもうと》弟
恋し恋しのなげきの涙
又はこの歌きく人々の
清い尊い情の涙
たまりたまった行く末は
遠く遠くの都まで
やがて帰ったその時に
土産にするもの一つ
汲んで尽きせぬ人間の
涙を湛えた青い壺
ほんに私の生命《いのち》の壺よ
大切《だいじ》な大切な青い壺
空を行く日よ野を吹く風よ
心して照れ心して吹け
壺に溜った生命《いのち》の泉
清い涙を乾かすな
[#ここで字下げ終わり]
これを聞いた人々は皆、涙を流して気の毒がって、子供達の胸にかけた壺の中に喰べ物やお金を入れてくれた。小僧は見えかくれにそのあとに従いて行って、自分は木の実を千切ったり、掃《は》き溜《だ》めを漁ったりして喰べて行った。
五
都へ帰る途中に大きな森があった。そこへ来ると一匹の鳶《とび》が来て、小僧に大変な事を知らせた。
「早くどこかへ隠れなければ危ないよ。三人の悪者が弓と矢を持って、お前達を追っかけて来るよ」
小僧はこれを聞くと、その三人の悪者はこの間の生き肝取りに違いないと思った。そして、「最早《もはや》今度は勘弁しないぞ」と思いながら、子供達を皆木の上に隠して、自分は直ぐに近所の村に行って何か探しまわった。見ると只《と》ある小径を横切って沢山の蟻が行列を立てて行くから、
「どこに行くのか」
と聞くと、一匹の大きな蟻が頭を上げて、
「砂糖を取りに行くのです」
と答えた。
「俺も砂糖を探しているのだ。何なら仕事を手伝ってやろう。その代り山分けにしてくれなければ嫌だ」
「どうぞ手伝って下さい。あまり沢山あって運び切れないので困っているのです。砂糖は向うの広場に落ちております。大方《おおかた》砂糖車から零《こぼ》れたのでしょう」
小僧はそこへ行って見ると、成る程沢山の砂糖が散らばって落ちていた。それを掃き集めてその半分を蟻の穴の傍へ持って行ってやると、蟻共はもうこれだけで穴に這入り切らないと云って喜んだ。小僧はあとの半分を持って引っ返して、森の奥深く這入って行った。
やがて生き肝取りの悪者三人がやって来ると、小僧は往来の真中へ飛出して大きな声で笑った。
「ヤーイ。又来やがったな。馬鹿野郎共。今度はあべこべに生命《いのち》を取ってやるぞ。その前にこれでも喰らえ」
と云いながら、お尻を出してたたいて見せた。
「それ」
と云って三人が弓に矢を番《つが》えると、小僧は早くも身をかわして、子供達が隠れているのと反対の森に駈け込んで、木の頂上に逆立《さかだち》をしたり、逆様《さかさま》にブラ下ったりして見せた。そしてだんだん三人を森の奥深く誘い込んで行った。三人の悪者はドンドン追っかけて行ったが、その中の一人はあまり上ばかり見ていたので、うっかりして熊蜂《くまんばち》の巣に足を踏み込んだ。驚いて飛び退《の》くと、そのあとから何千何万とも知れぬ熊蜂が一度に鬨《どっ》と飛び出して、三人の悪者に飛びかかって、滅茶滅茶に刺して刺して刺し殺してしまった。悪者共が死んでしまうと、小僧は悠々と樹の上から降りて来て、
「ヤア、熊蜂共。御苦労御苦労。さあ、約束の通り御褒美を遣るぞ」
と云って、砂糖の包《つつみ》を投げてやった。熊蜂共はブンブンと喜んで、
「これさえ下されば、私共は生命《いのち》も何も要りません」
と土に這い付いてお礼を云った。
六
こうして猿小僧の御蔭で十三人の子供は皆無事で都に着いて、両親や兄弟に会う事が出来たが、皆の者の喜びは譬《たと》えようもなかった。中にも王様は小僧を御殿のお庭に呼び寄せて、太子を助けてくれた御褒美にと云って、いろいろのものを賜わったが、小僧はお金や着物なぞはちっとも欲しがらずに、只喰べ物ばかりを欲張った。そして、あまり嬉しかったので、逆立ちをしたり筋斗《とんぼ》返りをしてお眼にかけた。王様も大層お喜びで、今日からこの小僧に乞食をやめさせて、御殿の中《うち》に抱えてやれとお言葉があった。
それから小僧は御殿の中《うち》でお湯に入れられて、美しい着物を着せられて、いろいろな礼儀や学問を教えられたが、小僧はそんな事は大嫌いであった。その中《うち》でも、広い長い重たい着物を着せられるのが一番|厭《いや》で、うっかりするとお付の者の眼を盗んで直《すぐ》に下着一枚になって、御殿の屋根の上を駈けまわった。それから夜はどうしても寝床の中に寝ないで、王様の馬小屋の藁の中に寝た。その馬は王様を載せるのが自慢で、「自分が通ると、人間が皆頭を下《さげ》る」と小僧に話して聞かせた。
「それだからお前は馬鹿なんだ
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