。それはお前に頭を下げるのじゃない、王様に下《さげ》るのだ。そんな事を喜んでいるより、俺と一所に来て野原で遊んで見ろ。日は照るし、風は吹くし、川は流れているし、美味《おい》しい草はいくらでもあるし、こんな面白い気持ちのいい事はないぜ」
と話して聞かせた。
「そんなら連れて行って下さい」
「うん、連れて行ってやろう」
と約束したが、やがて夜が明けると直ぐに閂《かんぬき》を外して、馬を出して、その背中に飛び乗って王宮の御門の処へ来た。門番は驚いて、
「どこへ行く」
と尋ねた。
「王様の馬と一所に野原に遊びに行くのだ」
「この馬泥棒」
と云う中《うち》に門番は馬を押えた。猿小僧は直ぐに馬の背から御門の屋根へ飛び上って、外へ出てしまった。
七
小僧が久し振りに山奥の猿の都へ帰って来ると、猿共は泣いて喜んだ。小僧も生れて始めて嬉し泣きに泣いた。そして云った。
「人間の都より猿の都の方が余っ程いい。もう決してここを出て行かないから安心しておくれ」
底本:「夢野久作全集1」ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年5月22日第1刷発行
※底本の解題によれば、初出時の署名は「萠圓山人《ほうえんさんじん》」です。
入力:柴田卓治
校正:もりみつじゅんじ
2000年1月17日公開
2006年5月3日修正
青空文庫作成ファイル:
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