ないかしらん……なぞと一瞬間に考えまわしながら、独りで赤面していると、その眼の前で、青木はツルリと顔を撫でまわして、黄色い歯を一パイに剥《む》き出して見せた。
「ハッハッハッ。驚いたもんでしょう。千里眼でしょう。多分そんな事だろうと思いましたよ。さっきから左足を伸ばしたり縮めたりして歩く真似をしていなすったんですからね。ハッハッハッ。おまけにアブナイなんて大きな声を出して……」
「……………」
私は無言のまま、首の処まで赤くなったのを感じた。
「ハッハッ。実は私《あっし》もそんな経験があるんですよ。この病院で足を切ってもらった最初のうちは、よく足の夢を見たもんです」
「……足の夢……」
と私は口の中でつぶやいた。いよいよ煙《けむ》に捲かれてしまいながら……。すると青木も、いよいよ得意そうにうなずいた。
「そうなんです。足を切られた連中は、よく足の夢を見るものなんです。それこそ足の幽霊かと思うくらいハッキリしていて、トッテモ気味がわるいんですがね」
「足の幽霊……」
「そうなんです。しかし幽霊には足が無いって事に、昔から相場が極《きま》っているんですから、足ばかりの幽霊と来ると、まこ
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