とに調子が悪いんですが……もっともこっちが幽霊になっちゃ敵《かな》いませんがね。ハッハッハッ……」
唖然《あぜん》となっていた私は思わず微苦笑させられた。それを見ると青木は益々《ますます》乗り気になって、片膝で寝台の端まで乗り出して来た。
「しかし何ですよ。そんな足の夢というものは、切った傷口が痛んでいるうちはチットモ見えて来ないんです。夜も昼も痛いことばっかりに気を取られているんですからね。ところがその痛みが薄らいで、傷口がソロソロ癒《なお》りかけて来ると、色んな変テコな事が起るんです。切り小口《こぐち》の神経の筋が縮んで、肉の中に引っ釣《つ》り込んで行く時なんぞは、特別にキンキン痛いのですが、それが実際に在りもしない膝っ小僧だの、足の裏だのに響くのです」
私は「成る程」とうなずいた。そうして感心した証拠に深い溜息をして見せた。青木は平生から無学文盲を自慢にしているけれども、世間が広い上に、根が話好きと来ているので、ナカナカ説明の要領がいい。
「実は私《あっし》も、あんまり不思議なので、そん時院長さんに訊《き》いたんですが、何でも足の神経っていう奴は、みんな背骨《せぼね》の下から
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