を自分で実行している夢を見続けていたのだ。そうして丁度いい加減のところで貴様から眼を醒まさせられたのだ……それだけなんだ。タッタそれだけの事なんだ……」
「……………」
「しかも、そのタッタそれだけの事で、俺は貴様の身代りになりかけていたんだぞ。貴様がした通りの事を、自分でしたように思い込ませられて、貴様の一生涯の悪名《おめい》を背負い込ませられて、地獄のドン底に落ち込ませられかけていたんだぞ。罪も報《むく》いも無いまんまに……本当は何もしないまんまに……エエッ。畜生ッ……」
 私の眼が涙で一パイになって、相手の顔が見えなくなった。けれども構わずに私は怒鳴り続けた。
「……ええっ……知らなかった……知らなかった。俺は馬鹿だった。馬鹿だった。貴様が俺に夢遊病の話をして聞かせた言葉のうちに、こんなにまで巧妙な暗示が含まれていようとは、今の今まで気が付かなかった。エエッ……この悪魔……外道《げどう》ッ……」
 私はここ迄云いさすと堪《た》まらなくなって、片手で涙を払い除《の》けた。
 そうして、なおも、相手を罵倒すべく、カッと眼を剥《む》き出したが……そのままパチパチと瞬《まばた》きをして、
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