、クロロフォルムの瓶をあすこに置いたのも貴様かも知れない。……男爵未亡人を凌辱《りょうじょく》したのも貴様に違い無い。そうして残虐を逞《たく》ましくして茶革の懐中《かみいれ》を奪って、俺の処へ……イヤ……イヤ……そうじゃない。そうじゃないんだ。……俺は決して嘘は云わない。俺は今夜偶然に夢中遊行を起したのだ。そうしてあの室《へや》に行って、四人の女を麻酔さして、未亡人の繃帯と帯とを切ったに違い無いのだ。けれども、それ以上の事は何もしていなかった……それ以上犯罪に属する仕事は……みんな貴様がした事なんだ。宿直員の話でも、その宝石に残っている俺の指紋の一件でも、ミンナ貴様の出まかせの嘘ッパチなんだ。貴様はただ偶然に、昨日《きのう》の昼間、標本室に這入って行く俺の姿を見付けたに過ぎないんだ。それから今夜も、歌原未亡人の容態を監視するつもりか何かで、この病院に居残っているうちに、又も偶然に、俺の夢中遊行を見付けたので、あとからクッ付いて来て様子を見届けているうちに思い付いて、スッカリ計画を立ててしまったのだ。そうして俺が出て行ったあとでソノ計画通りにヤッツケて、一切の罪を俺に投げかけて、俺の口を
前へ
次へ
全89ページ中83ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング