楯《こだて》に取るかのように、ピッタリと身体《からだ》を寄せかけて突っ立った。電燈の光りをまともに浴びながら、切れ目の長い近眼を釣り上らして、瞬きもせずに私の顔を睨み付けた。
 その真正面《まっしょうめん》から私は爆発するように怒鳴り付けた。
「犯人は貴様だ……キ……貴様こそ天才なんだゾッ……」
 副院長の身体《からだ》がギクリと強直した。その顔色が見る見る紙のように白くなって来た。扉《ドア》のノッブに縋《すが》ったままガタガタとふるえ出していることが、その縞《しま》のズボンを伝わる膝のわななきでわかった。
 こうした急激の打撃の効果を、眼の前に見た私はイヨイヨ勢を得た。
 その副院長の鼻の先に拳固《げんこ》を突き付けたまま、片膝でジリジリと前の方へニジリ出した。
 ……と同時に洪水のように迸《ほとばし》り出る罵倒《ばとう》の言葉が、口の中で戸惑いし初めた。
「……キ……貴様こそ天才なのだ。天才も天才……催眠術の天才なのだ。貴様は俺をカリガリ博士の眠り男みたいに使いまわして、コンナ酷《むご》たらしい仕事をさせたんだ。そうして俺のする事を一々蔭から見届けて、美味《うま》い汁だけを自分で吸
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