事をなすっては、第一あなたの純真な……お兄さん思いのお妹さんが可哀想ではありませんか。あの美しい、お兄様|大切《だいじ》と思い詰めておられる、可哀想なお妹さんの前途までも、永久に葬る事になるではありませんか」
 副院長は声を励《はげ》ましてこう云いながら、ポケットに手を突っ込んだ。そうして薄黒い懐中《かみいれ》みたようなものを取り出すと、掌《てのひら》の中で軽々と投げ上げ初めた。
「……いいですか。これはタッタ今、あなたの寝台のシーツの下から探し出した、歌原未亡人の宝石入りのサックです。この事件と貴方とを結び付ける最後の証拠です。同時に貴方の夢中遊行が断じて夢中[#「夢中」に傍点]の遊行[#「遊行」に傍点]ではなかった、極めて鋭敏な、且《か》つ、高等な常識を使った計画的な殺人、強盗行為に相違無かった事を、有力に裏書する証人なのです。もう一つ詳しく説明しますと、この中に在る宝石や紙幣の一つ一つを冷静に検査して行かれた貴方の指紋は、そのタッタ一ツでも間違いなく、貴方を絞首台上に引っぱり上げる力を持っているでしょう……それ程に恐ろしい唯一無上の証拠物件なのです。……ですから……コンナものを貴
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