しい、おそろしい、タマラナイ胴ぶるいが起って来た。どうかして逃れる工夫は無いかと思い思い……その戦慄を押さえ付けようとすればする程、一層烈しく全身がわななき出すのであった。

       三

 その時に副院長の、柔かい弾力を含んだ声が、私の頭の上から落ちかかって来た。
「そうでしょう。それに違い無いでしょう」
「……………」
「歌原男爵夫人を殺したのは貴方に違い無いでしょう」
 私は返事は愚《おろか》、呼吸をする事も出来なくなった。寝台の上にひれ伏したまま胴震いを続けるばかりであった。
 副院長はソット咳払いをした。
「……あの特等室の惨事が発見されたのは、今朝《けさ》の三時頃の事です。隣家《となり》の二号室の附添《つきそい》看護婦が、あの廊下の突当りの手洗い場に行きかけると、あの室《へや》の扉《ドア》が開《あ》いて、眩《まぶ》しい電燈の光りが廊下にさしている。それで看護婦はチョット不思議に思いながら、室《へや》の中を覗いたのですが、そのまま悲鳴をあげて、宿直の宮原君の処へ転がり込んで来たものです。私はその宮原君から掛かった電話を聞くとすぐに、中野の自宅からタクシーを飛ばして来たの
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