けておいた西洋手拭で、顔と手を拭いたが、その時にはもう死ぬ程ねむくなっていたので、スリッパを穿《は》かずに出かけていたことなぞは、ミジンも気付かないまま、倒れるように寝台に這い上ったのであった。
私の記憶はここで又中絶してしまっている。そうしてタッタ今眼を醒ましても、まだその記憶を思い出さずにいた。……昼間からズーッと眠り続けたつもりでいたのであったが、そうした深い睡眠と、甚だしい記憶の喪失が、私の恐ろしい夢中遊行から来た疲労のせいであったことは、もはや疑う余地が無かった。しかも、そうしたタマラナイ、浅ましい記憶の全部を、現在眼の前で、副院長に図星《ずぼし》を差された一|刹那《せつな》に、電光のような超スピードで、ギラギラと恢復《かいふく》してしまった私は、もう坐っている力も無いくらい、ヘタバリ込んでしまったのであった。
……相手はソンナ実例を知りつくしている、医学博士の副院長である。私の行動を隅から隅まで、研究しつくして来ているらしい人間である。神の審判の前に引き出されたも同然である……。
……と……そんな事までハッキリと感付いてしまうと、私の腸《はらわた》のドン底から、浅ま
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