ているミゾオチのまん中に在る……ということを眼《ま》のあたり発見した私は、それこそ生れて初めての思いに囚《とら》われて、思わず身ぶるいをさせられたのであった。
それから私は、瞬《またた》きも出来ないほどの高度な好奇心に囚《とら》われつつ、未亡人の左の肩から掛けられた繃帯を一気に切り離して、手術された左の乳房を光線に晒《さら》した。
見ると、まだ※[#「火+欣」、第3水準1−87−48]衝《きんしょう》が残っているらしく、こころもち潮紅《ちょうこう》したまま萎《しな》び潰《つぶ》れていて、乳首と肋《あばら》とを間近く引き寄せた縫い目の処には、黒い血の塊《かたまり》がコビリ着いたまま、青白い光りの下にシミジミと戦《おのの》きふるえていた。
私は余りの傷《いた》ましさに思わず眼を閉じさせられた。
……片っ方の乳房を喪った偉大なヴィナス……
……黄金の毒気に蝕《むし》ばまれた大理石像……
……悪魔に噛《か》じられたエロの女神……
……天罰を蒙《こうむ》ったバムパイヤ……
なぞという無残な形容詞を次から次に考えさせられた。
けれども、そんな言葉を頭に閃《ひら》めかしているうちに
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