思う間もなく、私の頭の奥の奥の方から、世にもおそろしい、物すごい出来事の記憶がアリアリと浮かみ現われ初めた……と見るうちに、次から次へと非常な高速度でグングン展開して行った。……と同時に私の腋《わき》の下からポタポタと、氷のような汗が滴《したた》り初めた。
 それはツイ今しがた、私が起き上る前の睡眠中に起った出来事であった。
 私はマザマザとした夢中遊行を起しながら、この室をさまよい出て、思いもかけぬ恐ろしい大罪を平気で犯して来たのであった。しかも、その大罪に関する私の記憶は、普通の夢中遊行者のソレと同様に、夢遊発作のあとの疲れで、グッスリと眠り込んでいるうちに、あとかたもなく私の潜在意識の底に消え込んでしまっていたので、ツイ今しがた眼を醒ました時には、チットモ思い出し得ずにいたのであったが……そのタマラナイ浅ましい記憶がタッタ今、副院長の暗示的な言葉で刺戟されると同時に、いともアザヤカに……電光のように眼まぐるしく閃《ひら》めき現われて来たのであった。
 それは確かに私の夢中遊行に違い無いと思われた。

 ……フト気が付いてみると私は、タオル寝巻に、黒い革のバンドを捲き付けて、一本足
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