んな夢中遊行を起す例は、大抵そんな遺伝性を持っている人に限られている筈です。殊に新東君なぞは、立派な教養を持っておられるんですから、そんな御心配は御無用ですよ。ハッハッハッ。まあお大切になさい。体力が恢復すれば、神経衰弱も治るのですから……」
 副院長はコンナ固くるしいお世辞を云って、自分の饒舌《しゃべ》り過ぎを取り繕《つくろ》いつつ、気取った態度で出て行った。
 私はホッとしながら毛布にもぐり込んだ。徹底的にタタキ付けられた時と同様の残酷《みじめ》さを感じながら……。

       二

 午食《ごしょく》が済むと、青木が寝台の隅で、シャツ一貫になって、重たい義足のバンドを肩から斜《はす》かいに吊り着けた。その上からメリヤスのズボンを穿《は》いて、新しい紺飛白《こんがすり》の袷《あわせ》を着ると、義足の爪先にスリッパを冠せてやりながら、大ニコニコでお辞儀をした。
「それじゃ出かけて参ります。今夜は片っ方の足が、どこかへ引っかかるかも知れませんが、ソン時は宜《よろ》しくお頼み申しますよ。アハハハハハ。お妹さんのお好きな紅梅焼を買って来て上げますからナ。ワハハハハ」
 と訳のわからない
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