したから、それとなく様子を聞き糺《ただ》してみますと、その岩形圭吾氏と申しますのは本年の二月に肺炎で死亡致しておりますそうで……」
「岩形氏の事は今調べているところです。いずれわかったらお知らせします。……で、それに就いて少々お訊ねしたい事がありますから何卒《どうぞ》御腹蔵なく……」
「は、はい。それはお言葉までもなく……」
 それから私が問い糺したところによると、石持氏は流石《さすが》に小銀行の支配人だけあって、相当苦労をしているらしく、着眼点が普通と違っていた。石持氏が真先に気付いたのは、女が平生あまり化粧をした者でない事であった。真白くコテコテと塗り立てているにはいたが、それは処々ムラになっていて、額の生え際なぞは汗で剥げかかっていた。尤も地肌は白い方であったが眉は正《まさ》しく描いたもので、本来の眉よりはずっと幅広く長く見せかけてあった。背丈は普通より稍《やや》高く、五尺三寸位のところで、着物の着こなしがどことなく身体《からだ》にそぐわぬように見えた。姿勢は非常にいい方で、日本人の女としては幾分|反《そ》り気味に見えた。その顔の特徴は二重瞼の張りのある眼と、女にしては強過ぎる程
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