から仕方がない。君の銀行はこの間から大株でかなり儲かっている筈だから、それ位の事はどうにかならぬ事はあるまい……と高飛車で図星を刺されましたので仕方なしに承知をしたのでした。実は支配人も驚いたのだそうです。取引所の事情を知り抜いている話ぶりなので……そうして内々で準備をしていると一昨々日《さきおととい》……十一日の朝になって岩形氏がひょっこり遣って来て、いつもの通りの態度で三千円の小切手を出した序《ついで》に、例の金の準備はどうだと尋ねたそうです。これに対して支配人は、準備はちゃんと出来ている。しかし何とかしてもらえまいかと頼みますと岩形氏はじっと考えたあげく極めて無造作な口調で、それではその五分の四だけ引き出す事にしよう。そうして受取り人には田中|春《はる》という極く確かな女を出すからよろしく頼む。なお間違いのないように、割《わ》り符《ふだ》を渡しておこう……と云って自分の名刺を半分に割《さ》いて、一つを支配人に渡し、残りの一つを自分のポケットに入れたそうです」
「ええと。一寸待ってくれ。その名刺の半分はそこに在るのかね」
「はい。私がここに持っております」
「それは名刺の上半部で、
前へ
次へ
全471ページ中85ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング