除いては、白い方である。又、昔はかなり烈しい労働に従事したらしく手足の皮が厚くなっているし、腕力も相当にあるらしく、左の腕に一度小さな刺青《いれずみ》をして焼き消した痕がある。しかし、それがずっと前に東京市内で流行した不良少年用の花型のものか、外国の無頼漢用の骸骨《スケレトン》式のものか、それとも普通の恋愛沙汰から来たハート型に頭文字《イニシアル》の組合わせ式のものかというような事は、ちょっと判別出来なかった。
服装[#ゴシック体]
◆服装 外套は焦茶色の本駱駝《ほんらくだ》で、裏は鉄色の繻子《しゅす》。襟《えり》は上等の川獺《かわうそ》。服は紺無地《こんむじ》羅紗《らしゃ》背広《せびろ》の三つ揃いで、裏は外套同様。仕立屋の名前はサンフランシスコ・モーリー洋服店と入っている。持主の頭文字《イニシアル》は初めから縫い付けてないらしく引き剥がした痕跡もない。外套、上衣とも襟の処には葉巻の芳香と、熟柿《じゅくし》臭い臭気とが沁《し》み込んでプンプンと匂っている。帯革は締めず。青い革のズボン吊り。本麻、赤縞ワイシャツに猫目石のカフスボタン。三つボタンは十八金。襟飾《ネクタイ》は最近
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