けても見えないものが、真横《まよこ》から水平に近く照しかけると見え出して来るという事実は、実につまらない偶然の事ではあるが、私にとっては初めての経験で、この際としては特に貴重な発見でなければならなかった。
私は早速、電燈を取り上げて、同じように光線を横から床の上に這わせながら、女の左足の痕を探したが、それは右足のすぐ近くに、殆んど扉《ドア》とすれすれの位置に残っている。但しこれは爪先の形が右足のそれよりも稍《やや》ハッキリと現われていて、身体《からだ》の重みが幾分余計に、左足にかかっていた事を証明している。
私はそれから腰を屈めて、床の上の女の足跡がどこから来たか探し初めたが、これはさほど困難な仕事ではなかった。足痕は人の通らない端の方ばかりを選《よ》って歩いているために、殆んど一つも踏み消されたものはなく、昇降口の階段の処まで続いて来て、そこからずっと階下《した》まで敷き詰められた絨氈《マット》の上まで来て消え失せている。
私はその足跡の主が、階段を降りて行く後姿を眼の前に見るように思いつつ、階段の下の方まで見送っていたが、間もなく引返して、日比谷署と、警視庁と、検事局から詰め
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