署より司法主任|野元《のもと》警部、戸次《とつぐ》刑事部長以下刑事二名が現場に出張したるが、その結果、一本の注射器と毒物の容器とおぼしき空瓶が発見され、更に屍体を詳細に調査したる結果

     左腕上膊部に小[#大文字]
     さき注射の痕跡[#大文字]

 あり。その部分のシャツが上下二枚とも同一箇所を重ねて鋏様《はさみよう》のものにて截《き》り破りある事実が発見されたり。然《しか》れどもその他の室内の物品は何一つ紛失、または攪乱されたる形跡なく、岩形氏所持の大型金時計は正確に、その時の時刻七時四十一分を示しおり。ただ敷き詰めたる絨毯の上に、岩形氏の泥靴の痕跡が、廊下より続きて入り来《きた》れるのを見るのみ。ここに於て日比谷署の司法主任野元警部はその容易ならざる怪屍体なることを認定し、この旨を警視庁、及《および》、検事局に報告するところあり。警視庁よりは第一捜索課志免主任警部、飯村刑事部長、金丸、轟二刑事、鑑識課員の数名と共に時を移さず現場に出張し、又、検事局よりは新進明察の聞え高き熱海《あたみ》検事と古木書記とが臨場して詳細なる調査を遂げたるが、その結果は更に幾多の怪事実の発
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