まれ》に見る怪事件にして、これを解決したる狭山課長の苦心、亦《また》実に手に汗を握るものあり。今その詳細に就き本社が特に探り得たるところを記さん。初めに、

   岩形氏の変死を[#大文字]
   発見したる給仕[#大文字]

 山本千太郎(一八)はこの由を直ちにホテルの支配人竹村氏に知らせたるを以《もっ》て、同氏は直ちに現場に到りしに、岩形氏は紺羅紗《こんらしゃ》の服に、茶褐色の厚き外套を着し、泥靴を穿《は》きたるまま、寝台の上に南を枕にして西向きに横たわり、帽子は枕元に正しく置きてあり。双《そう》の掌《て》と、外套の袖口と、膝の処が泥だらけになりおれども、顔面には何等苦悶の痕《あと》なく、明け放ちたる入り来《きた》る冷風に吹かれおり。ボーイ山本千太郎の言に依れば、窓は初めより明け放ちありて入口の方を背にして横たわりおりしを以て全く泥酔して帰りたるまま横臥し、朝風に吹かれいるものと思い、近づきて呼び試みたるに返事なかりしより疑いを起したるものにして、なお入口の扉《ドア》も屍体発見以前より鍵がかかりおらず。暫くノックしても返事なかりしを以て、無断にて開きたる旨陳述せり。急報に接し日比谷
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