卒《どうぞ》御安心下さい。しかしこれだけの事は御参考までに申上げておきます。その電文の内容が全部実現することになりますれば、現政府は満洲と西比利亜《シベリア》の利権を米国に売って、総選挙の費用を稼ぐ事になります。……ですから万一閣下がその電文を握り潰してお終《しま》いになるような事がありますれば私は大和民族の一員として、到底黙って見ている訳に参りませんから、個人として新聞に……」
「黙り給え……」
と総監は低い、押え付けた声で云った。真白に眼を剥《む》いて……。
「それ位の事がわからぬと思うか。余計な心配をするな」
「……でも……この捜索を打ち切れと仰言《おっしゃ》るからには……」
「……ダ……黙り給えというに……君はただ命令を遵奉《じゅんぽう》していさえすれあいいのだ。吾輩と同様に内務大臣の指揮命令に従うのが吾々の職務なんだ」
総監はここでやっと落ち着いて来たらしく、ハンカチを出して額の汗を拭いた。
「……しかし内務省の指揮命令は、いつも政党の利害を本位としております。司法権はいつも政党政派の上に超越さしておかなければ、現にこのような場合に……」
「……いけないッ……君はまだ解ら
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