いた。そのハンカチの下から軽い、微かな叫び声が断続して洩れ出した。しかしそれはほんの一秒か二秒の間であった。忽ちよろよろと後方《うしろ》によろめいた瞬間に頭髪の中から眼も眩むばかりのダイヤのスペクトル光が輝き出たが、それもほんの一刹那の事であった。
 ※[#「※」は「てへん+堂」、第4水準2−13−41、351−16]《どう》と肘掛椅子の中に沈み込んで、顔から両手を離すとそのままぐったりと横に崩れ傾いた。そのたった今|嚥《の》んだばかりの毒液に潤うた唇は、血のようにぶるぶるとふるえつつ、次第次第に傾いて行く漆黒の頭髪《かみげ》の蔭になって、見えなくなって行った。その頭髪《かみげ》の中から、たった一つ生き残った大きなダイヤがもう一度|燦然《さんぜん》と輝き現われて、おびただしい七色の屈折光を廻転させつつ、ぎらぎらと眼を射たが、それもやがてゆらゆらと傾いて行く髪毛の雲に隠れて、オーロラのように見えなくなってしまった。
 女は死んでしまった……。
 ……けれど時計はまだ、その閑静な音を打ち止んでいない。霧の中から洩れ出す教会の鐘の音《ね》をさながらに、悠々と……四つ……五つ……六つ……七つ…
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