この紙は……」
 私は憤激の余り手先がぶるぶる震えるのを、やっとの思いで押え付けながら声を励まして説明した。この電報一本が現政府の致命傷になりかねないと思ったから……。
「……ハイ……これはこの間お眼にかけました、帝国ホテル滞在中の曲馬団員から、団長、バード・ストーンに宛てた長文の暗号電報を飜訳したものであります。最後の署名のJ・M・SをJ・I・Cと置き換えて得ました暗号用のアルファベットを、更に、苦心して探りました××大使館用の暗号用アルファベットと置き換えて得ました英文の和訳がこれであります。……すなわち、バード・ストーン一座が大連《だいれん》の興行を打切として解散するに就いて、団員間に手当の不足問題が話題となっていること……××大使が非常に都合よく事を運んでくれているので、外務省にも警視庁にも感付かれる心配が絶対にないであろうこと……セミヨノフの使者に皇女を引渡す場所はハルビンが最適当と認められる事(この皇女というのは或《あるい》は金《かね》の事ではあるまいかとも考えているのでありますが)……それから張作霖に飛行機二台を引渡す方法に就《つい》ては、奉天《ほうてん》政府の代表チェン
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